ギョエー!旧校舎の77不思議

  • 上田誠インタビュー1

::: 対談企画 特別編 :::

上田誠インタビュー1

UEDA MAKOTO INTERVIEW

役者同士の仕掛けあいと、世代の和音を奏でることがやりたかった。

──なぜ「七不思議」ならぬ「77不思議」をしようと思ったのでしょう?

去年、劇団が20周年を越えたんですが、それで「ゴールを迎えた」みたいな気分が、みんなに出てくるかもしれないと思ったので、「全然そうじゃなくて、ここから新しく始まる感じだよ」という、21年目の景気づけみたいなものです。でも一番は『(出てこようとしてる)トロンプルイユ』(2017年)と『サマータイムマシン・ブルース/ワンスモア』(2018年)が「上田劇」というか、割と作家・演出家が立ってるような劇が続いていたので、次は役者に見どころのある劇にしようと思ったことでした。一昨年辺りから、みんなに役者としての野心や自我が、遅まきながら芽生え始めたな、という印象があって(笑)。そういう役者個々の面白さを引き出せるような劇をやりたいというのが、大きかったですね。そうなるとあまり難しいものより「77個の不思議をやります」みたいな、みんなが乗っかりやすそうなテーマの方がいいなあと思ったんです。

──「オカルト」をテーマにするのは、初めてですよね。

僕自身はもともと好きな題材で、演劇以外ではよく扱っているんです。それを今回は演劇でやるということで、ホラーやオカルトでは避けて通れない、死や痛みのような負のテイストを、どう扱うことができるのか?……という作家としての挑戦もありましたけど、やっぱりメインの狙いは役者同士の関係性。驚かせる・驚かされるっていうので、役者同士の仕掛けあいができそうだなあと。『サマー~』2作のような演技のパスワークではなく、一人ひとりが勝負するように演技を作って欲しいということは、役者にも言ってましたね。割と殴り合いとか、バトルロワイヤルみたいなイメージでした(笑)。

──今回は5人の俳優がゲスト出演していますが、選んだ理由は何でしたか?

(2000年初演の)『サマータイムマシン・ブルース』で、学生が主役の芝居をやってた集団が、21年目を迎えたら世代が繰り上がって、生徒というより先生側になってるんですよね。そうした時に、先生たちの話であり、かつ生徒の話でもあるという二重構造……「先生」か「生徒」の単音ではなく、和音を奏でるということが、今だからできるんじゃないかなと。そこで生徒たちは一回り若い、初々しい人たちをお呼びしました。まあ、祷(キララ)さんと日下(七海)さんはともかく、金丸(慎太郎)と亀ちゃん(亀島一徳)は初々しくないですけど(笑)。そこでさらに、僕らより年上の納谷(真大)さんに加わっていただいているのも、縦の(世代の)広がりが出てよかったなあと。

──そうなると学校を舞台にしたのは、単にそういう不思議話が多い場所であることに加えて、世代間の格差がクッキリ見えやすいという点でも、絶好の題材でしたね。

そう思います。ただこれを書くにあたって、学校の先生たちに実際に話を聞いたりしたんですけど、現在の学校を書くのはちょっと難しいかなと思いました。生徒の扱い方を「雑」にしづらいというか。それにスマフォやSNSを使いこなすとかの、現代風の高校生活って『続・時をかける少女』(2018年)で結構描くことができたという気持ちもあったので、今回は校内暴力が吹き荒れてるような、一昔前っぽい高校のイメージにしました。僕自身が90年代の「学園ホラー」ブームの頃の作品が、割と好きというのもあるので、ちょっとそういうトーンを入れようと。ナレーションをやっていただく祷さんが、そんなムードを持ってる人ということもあって、特にナレーションには、すこし古風な言葉を並べるようにしてみました。

学校という場所には、いろんなトーンの物語と怖さがある。

──77もの怪異を用意するのは大変だった思いますが、どういう風に収集しましたか?

まずは各地で語られている「定番の不思議」を集めて、アレンジしていきました。僕が考えたもの以外にも、ヨーロッパ企画の若手作家チームからも募集したり、以前『暗い旅』で使ったネタなど、200個ぐらいの怪異をまずそろえて。その中で「幽霊系」「妖怪系」「時空のねじれ系」などの分類をした上で、物語の前半戦と後半戦に振り分けていきました。今回は休憩をはさむ、というのも割と早い段階で決めていたので。前半は、異界から何かがやってきそうな「気配」の段階。後半はその境界が破れ、人間界と異界が混じり合うことで生まれる何かを描いていく。そういう構造を踏まえた上で怪異を絞って、出す順番を決めていきました。今回はある程度僕の方でネタを固めてから、エチュードで実際の雰囲気を見るという感じだったので、役者から怪異のネタを出してもらうというのは、一個もなかったんじゃないですかね。

──その役者たちからは、「脚本がいつになく早かった」という話を聞きましたが。

いつもより(本公演に取り掛かる)準備が早かったのもありますけど、今回はなるべく早く稽古場に本を持っていって、そこから探る時間を作ることを、もともと目標にしてました。特に昨年は僕の一人相撲の時間が長くて、本当にギリギリに台本を渡す羽目になったので。でも脚本にはこだわりましたし、むしろ「あまり考えきれないまま、本番を迎えた」という感じが、今回はない。このタイトルで、77個の不思議を出すという企画性においては「これ以上考えても、何も出ないんじゃないかな」っていう所までやれたと思います。

──学校を舞台にしたことで、世代の違い以外にも、こういう面白いことができたというポイントはありますか?

一口で「学校もの」と言っても、いろんな物語のコードが埋まってるということに、早く気づけたのはよかったです。学校を舞台にした物語って、それこそホラー系もあればSFもあるし、ライトノベル的な恋愛も当然あれば、池田小事件のような社会的な事件の場所にもなる。もちろん学園ドラマのようなことも。つまりいろんなトーンの物語が、学校という場所から生み出されて来ているわけです。学校という舞台を使って、青春モノも、ヒリヒリするドキュメンタリー的なこともできるし、教育論もできる。それはつまり、いろんなトーンの怖さを作ることも可能なんです。すごく雑な怖さもあれば、怪異よりある意味恐ろしい、現実的な恐怖があったりと。多彩な怖さを作ることができたのは、やっていて面白かったです。

──同じくオカルトの定番である、病院ではこうは行かなかったですね。

そうそう。やっぱり病院のホラーは、ただただ人の生き死にの話に終わってしまいそうだし、妖怪の出る幕がなさそうですし(笑)。幽霊や妖怪や、「階段が一つ増える」みたいな時空の歪みまでもが一つの場所で起こるのは、やっぱり学校ならではだなあと思います。

怖いものを作るのは、笑いよりも感覚的にならざるを得ない。

──今回「オカルト」と「コメディ」を両立させることにおいて、難しさを感じた点や、逆に発見などはありましたか?

その「怖い」と「笑える」を両方やらなきゃいけないというのが、難しかったですね。怖いだけでもダメだし、笑えるだけだと今回の狙いから外れるし。しかも基準となるような法則がそこにはなくて、僕の中にしかないバランスで判断するしかなかったんです。特に「怖さ」を作るのは初めてのことで、やり方がわからなかった。「不思議さと、チャーミングさが両方あるネタは何か?」みたいなことで考えたんですが、「不思議さ」や「違和感」を生み出すには、笑いだけをやる時よりも感覚的に作らざるをえない……ルールに沿って作ることが難しい。いつもは僕なりに「この世界は、こういう原理で動いてる」ということをちゃんと考えてから作るんですけど、怖いことって原理がわからないから怖いわけなんで、原理を追求すると恐怖感が薄れてしまう。

──怪奇現象を科学的に解明されると、怖さが霧散するのと同じことが起こる。

ということですね。「あ、そういう理屈で動いてるのね」というのがわかると、怖くなくなってしまうので。僕の中では一応それぞれの怪異のルールは決めているけど、あまり説明はしないようにしています。でも学校の怪談自体が、割といい加減なものが多いので、そこは助かりましたね。たとえば「階段が一段増える」なんて、物理的には理屈が通らないですし。だから「原理はよくわからないけど、まあ入れようか」というのが結構あって、僕からしたらかなり雑というか、大らかな作り方でしたね(笑)。もちろん僕なりの整理は、最低限はやってますけど。

──すでに各地で上演されていますが、お客さんが怖がってる手応えはありますか?

始まってしばらくは、結構怖いと思うんです。でも一度お客さんがワッと笑ったら、「周りに人がいっぱいいる」という安心感が出ちゃうんですね。お化け屋敷に、何百人で一緒に入るみたいな感覚になるから(笑)、笑えば笑うほど怖くなくなってしまうんだなあと。あとやっぱり演劇で怖い話をする場合、舞台上の人数が多いと怖くなくなりますね。一人や二人だと結構怖さが出るんですけど、そういう人数だけでシーンを作っていくと、あっという間にみんなの出番がないまま時が過ぎるんで。演劇で怖さを出すにはどうすればいいか? という勉強は、かなりできました。

──これから舞台を見に来られる方や、見に来るか迷ってる方に向けて、メッセージをお願いします。

一応「今回は怖いものを作る」という気持ちで作ったものですので、怖いものがダメな人は観ない方がいいです(笑)。本当に77の恐ろしいことが、あなたを待ち受けてるので、自己責任で見に来ていただきたいですね。特に劇場って、リアルで怖い話が多い場所なので、本物の怪異が起こるかもしれませんから、心して見に来てもらわないと、と思います。

文:吉永美和子