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ヨーロッパ日記

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■ 5月31日    ( 上田 ) 
この日は非同期テック部、第2回作品発表の日。なんだか本当に、部活の試合のあとみたいだったな。汗と輝きと、やりきれなさと。発表まではいつも過程を伏せるテック部なので、なかなか経過が書けないぶん、この日記で遡って書きます。長くなりますが、興味ある方おつきあいください。(日々少しずつ書いたので、遅くなりました)

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5月5日の第1回作品発表をおえ、確かな手ごたえと高揚を感じていた、部活をやる年齢をはるか過ぎた3人、ムロツヨシ部長・真鍋大度副部長・ぼく(上田副部長)。遅すぎることなんて何一つないので、次回活動をはやくも5月末日とさだめ、部長は副部長ふたりの顔色を多少みながら、生配信で日程発表。場所はこんどはYouTube Liveで。そうして5月半ばあたりから、心の部室(Zoom)で、夜ごとミーティングを重ねた。おあつらえ向きの、残りまたもや2週間。

やることは存外すぐに決まった。今回も舞台はムロさんの部屋。そして、こんどはパラレルワールドのムロたちを、「生身で」同じ空間に登場させる。しかもそれを、生配信のムロと合成して絡ませる。さらには、合成しながらカメラワークもしてみせる。前回やった「モニターごしのムロたちの共演」から、ひとつフレームをなくした、より実在感のある共演。できるのかそんなこと。

真鍋副部長は、テックのあてがあるとのこと。ロボットアームでカメラワークを制御して、何度やってもおなじカメラの動きができるようにする。しかるのち、事前に撮影したムロ(たち)と、生配信のムロを、びたっと同じカメラワークで合成する。

つまり、いちど事前撮影がはじまったら、部屋にすえたカメラは、本番を終えるまで何があっても動かせない。1ミリでも動かすとアウト、だと真鍋副部長はいう。「万が一動いたら、ちょうど合うように設置しなおすというのは?」「無理ですねえ」。こういうときの真鍋副部長はシビア。ムロ部長も、「なんだよそれ、俺どうやって暮らせばいいんだよ。面白くなってきたねえ。こえー。暮らせないよ俺この部屋で。おもしれー」と、とっ散らかりながらもお気に入りのようす。

さらには、「お客さんのチャットやツイートを拾って、リアルタイムで映像に描画することもできますよ」と、真鍋副部長。それはそれは結構なテックで、とへりくだるしかないのだけど、見ているお客さんが作品にそうやって関われるのは、とても面白く、必然性もある気がする。

この先、緊急事態宣言がとけ、日常へと散らばりゆくこの部活。だけどその前に、力を合わせてなにかをなすことは、せっかく生まれたこの部活が無駄ではなかったこと、ささやかながらこれからもあっていい場所であること、の、証になるんではないか。エモい。そしてこの部では、エモは美徳とされている。なので、「ムロたちがどんどん部屋にやってくる」「最後は元気玉みたいに、皆のメッセージを集めて何かをなす」という方針のもと、ぼくはムロさんの部屋の写真と首っ引きになりながら、脚本を書いてゆく。ムロイオンキング。あつまれ同列のムロ。ロムツヨシ。エモーショナルウェーブ。

かたや真鍋副部長の、実験と停滞、そして発見の夜はつづく。カメラが首をふると、合成の精度が得られないのだという。「どれだけの精度を求めているんだろうこの人は」という我々の思いを背に、「再起動と電源抜き差し、そして根気」「たまたまの成功はいらない。それよりも失敗の原因が欲しい」などの名言をドロップしながら(きゃー)、最終的には「ロボットアームではなく、全天球のカメラを使う」という斜め上のソリューションに着地。これを制御するプログラムは、副部長みずから書くのですって。

リレーにたとえると、第1走者が真鍋副部長で、第2走者がぼく。そしてムロ部長はいつもアンカー。しかし部長は、やきもきもせず(してたんだろうけど)事前撮影へ向けて、衣装をそろえたり、「ムロイオンキング」の垂れ幕をこしらえるとともに、インのスタなるライブで日々告知にいそしみ、「絶対開演」というバルスより恐ろしい呪文をとなえだした。数万人の広報部員さんたちもこれに応えてくれ、強い部活の朝練みたいにして、部長が指示するワードのトレンドインを日々なしとげ、副部長たちに大きなエールと圧を送ったのだった。怖(こわ)ありがたかった。

ムロ2〜9を粛々と事前撮影。ヨーロッパ企画からこたびも参戦、永野・本多パートの撮影。ロボ全般・酒井によるくそロボット操作。そして森さんの絢爛な音楽、大見さんの辣腕なCG。大度さんひきいるマッチョ軍団による鬼開発(見てませんが、どう考えても)。うちの小林君たち若手映像班も、ムロとムロが重なるところのヌキ地獄を若さで踏破。muro式、からも森川さんがロムツヨシの衣装応援。ムロ部長の個人練、各種粘着テープによるカメラの圧倒的固定。本多くんはにわか助監督として現場へイン。そんなふうに、それぞれの団体・個人から応援してもらえながら、文化祭前みたいな祝祭感のなか、すべては急ピッチながら着実に、仕上がりつつあった。本番当日、潮目が変わるまでは。

本番6時間前、午後2時。ムロ宅では、部長と真鍋副部長、そして本多くんが、映像班からの最後のデータを待っていた。これが届けば即実装、リハに移れるのだが、届かない。真鍋「ぶっちゃけ、やばいです。そろそろ、いろんな可能性を考えといたほうがいいかも」 ムロ「まじか」。そのころわが映像班は、あるトラブルを解消できずにいた。千羽鶴にたとえると、鶴を千羽おる、までを終えたのち、それに糸を通す作業で絡まってしまい、これがどうにもほどけないのであった。

緊急電話会議。すわ延期か、となるも、ムロ部長は「やる。今あるものでやろう。そうしたい。今日やんなきゃ意味がない」と毅然と宣言。そうして一同は肚をくくり、また緩めてはくくり直したのち、演出プランをぐいっと変更。準備していたすべてはやれないが、7割がたはやれる。ので、残り3割をどう凌ぐか。

残り時間いっぱいまでリハを重ね、真鍋副部長は、自動手動を問わず、やれるだけの処置をほどこす。そしてムロ部長は、変更した動きを体で覚えつつ、なんとかアドリブで救える部分がないかと模索。ぼくも演出の修正を伝えるが、こんなときリモートがもどかしい。そうして痺れながら開演時間をむかえ、まずは無人配信がはじまったそのとき。緊張の糸ならぬ、ムロ部長のイヤホンの線をうっかりハサミで切ったのは、本多助監督であった。「ごめんごめんごめん!」「大丈夫大丈夫!」 このやりとりの音声はかるく生配信されたが、ムロ部長いわく「これで一気に力が抜けた」のだそう。

4万人が見守るなか、20分間の本番。もちろん望んだ完ぺきではなかったけど、あくまでぼくから見て、面白かったし感動的だったし、バグの中を泳ぎ、パフォーマンスにさえ取り込むムロ部長は、泣けるほどのかっこよさだった。そして真鍋副部長の「最後はやっぱり、手動なんだよ」と背中で言わんばかりの巧みなオペレーションは、これまた震えるようなかっこよさで、その名言(言ってない)を、心に入れ墨で刻んだぼくであった。クライマックスで、ムロイオンキングの呼びかけに応じ、部員たちがつぶやいた「#心配なくはないけどさ」の大洪水によるエモーショナルウェーブは、ロボットよりぼくの胸を打ち抜いた。最高だったです。朝練の成果だぜ。

支えてくださった方、見守ってくれた方。本当にありがとうございました。お手数ご心配かけました。

終わって、よかったねでも悔しいね。あとで撮りなおそうか。その前にビールだね。と、ムロ部長がビールを開けたと同時に、真鍋副部長が「いま撮りますか」と、スパルタかつまっとうな提案。さっきはあれほど「この範囲から絶対はみださないで!」と動きを制限されていたムロ部長なのに、こんどは2人の副部長から「重なりはあとで処理するから、のびのび動いて!」と真逆のオーダーをうけ、「なんだよ生配信じゃなくなったとたん、強気かよ!」とぶーたれながら、2ステめをのびやかに好演。これをOKテイクとし、一同はぶじにビールにありつけた。テコでも動いてはいけなかった全天球カメラはべりべりと解放。そして先ほど撮ったリテイク版を、のちに編集して完成版としてアップしよう、という大人げない部会決定がなされたのであった。

部室にいつまでも残る余熱、夜の冷気。立ち去りがたさ、立ち去らないといけなさ。先輩の頼もしさ、応援のありがたさ。日々の暮らしと仕事のあいだで、非同期テック部は部活すぎるほど部活であり、ぼくらはライバル校のいない大会で、その夜たしかに「試合」をした。
6/10(Wed) 16:55 No(12828)


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Annecho by Tacky's Room